医療法人社団パリアン 川越厚理事長(AIMS顧問)インタビュー

 

「家族を亡くした子どもへのグリーフケアの現状と課題」

平成23年10月1日 於:医療法人社団パリアン
聞き手:AIMS代表 高井伸太郎

がん患者さんのご家族のケアという課題

高井:川越先生、今日はよろしくお願いします。先生にはAIMSの顧問になっていただきましたが、先生は在宅緩和ケアがご専門でいらっしゃいますよね?

川越:私は、医療法人社団パリアンという組織の理事長をやっていますが、パリアンでは、在宅ホスピスを行い、末期がんの患者さんの終末医療を行っています。

高井:AIMSの目的はがんで亡くなる若いお父さん、お母さんの子供たちのケア・サポートというところにあるわけですが、先生が在宅ホスピスの現場でこの必要性を感じられることはありますでしょうか?

川越:はい、その必要性は非常に高いと感じております。私が在宅ホスピスで看取らせていただく患者さんのうち、AIMSが対象にしようとしていらっしゃる年齢が30代、40代の患者さんというのは10人に1人程度だという印象があります。そして、その方々には確かに幼いお子さんがいる場合が多いです。実は、私も以前に幼いお子さんを残して亡くなったがん患者さんのご家族のケアというのに取り組んでいたことがあるのです。

高井:そうなんですか。何かそれにはきっかけがあったのでしょうか?

川越:20年ほど前ですけれども、私の患者さんで43歳で亡くなったお母さんがいらっしゃいました。43歳というとちょうど高井さんのお姉さんの真理子さんが亡くなった年齢と一緒ですね。その方にはご主人と男の子のお子さん、大体18歳くらいでしたか、と10歳くらいのお嬢さんがいらっしゃいました。私は、そのご主人とは奥様がご存命のときから親しくさせていただいていましたので、奥様が亡くなった後もご主人とは時折連絡を取っていたのですが、息子さんやお嬢さんとは連絡を取っていなかったのです。そうしましたら、奥様が亡くなってから4年ほどたったところで、お嬢さんがマンションから飛び降りて自殺未遂をしてしまったのです。

高井:そうですか・・・・。

川越:私もご主人のほうには気が回っていたけれども、お嬢さんは大丈夫と思っていたところだったので、非常にショックでした。我々在宅医療をやっているものは通常の病院での治療に比べて患者さんだけではなく、そのご家族と接する時間が長いですし、特に我々がやっているホスピスではご家族の死ということで、その関係も密になります。

そのため、私は、単に患者さんのケアということだけではなく、ご家族のケアということも自分の役目だと考えていますので、このお嬢さんの自殺未遂という事件は私にとっては、大きな影響を与えました。

高井:それもお母様が亡くなってから、4年もたってからですからね。

川越:そうなんです。私も無事にやっているということで、安心していたところだったので、やはり子供にとって親が亡くなるということは大きいことだし、それがどのような形でいつでてくるのかわからない、ということを再認識させられました。

川越先生のグリーフケアへの取組

高井:そのような件がきっかけとなって、川越先生はがんで亡くなった患者さんのご家族のケアとしてどのような取り組みをなさったのでしょうか。

川越:60歳未満で在宅でがんが原因で亡くなったご家族を対象にしました。さらに、亡くなった直後というのは、暫く期間が経過した方とは状況が違うと思いますので、亡くなってから3ヶ月以上たったご家族を対象にしました。そして、そのご家族を集めて、お茶を飲みながらお話をするという形式をとりました。

高井:どなたかカウンセラーのような方がいらしたのでしょうか?

川越:いえ、特にカウンセラーはいませんでした。全て私の患者さんだった方のご家族ということで私が存じ上げている方々ばかりでしたので、私からそれぞれのご家族を紹介しつつ、患者さんの思い出話のようなことをお話して、ご家族の方がお話ししやすい状況を作るという形で進めました。

高井:先生がファシリテーターの役割を果たされたわけですね。こういう遺族の会のような会の存在は私も聞きますが、初対面の他の遺族の方たちの前で皆さんお話できるのかなぁ、ということが自分自身も姉をなくした遺族として気になるのですが。

川越:私がやっていた会の場合には、全て私の患者さんのご家族、在宅でご家族を看取っている、という点で共通点があるので、参加してくださった遺族の方もすぐに打ち解けて、自然にお話できていたように思います。

高井:確かに皆さん川越先生の患者さんだったということであれば、同じような経験をしているということで、安心感があるかもしれないですね。私も母を先生に診ていただきましたが、きっと同じようなケアを受けていたのだろうな、とある程度想像力も働きますし。

川越:そうですね、そして、皆さん、ご自身の経験を話し、ほかの方々の経験を聞くことによって、似たような経験をしているのだなということで安心される方も多かったと思います。一度来てくださった方は、二度三度と足を運んでくださいました。

高井:実際に、遺族であるお子さんもその茶話会には参加していらしたのでしょうか?

川越:うーん、どうだったかな。実際には昼間の活動ということもあって、お子さんはいらっしゃらなかったと思います。でも、そのお子さんを毎日見ていらっしゃる残された親御さんが参加することによって、間接的にお子さんの助けになっていたのだろうと思います。

子どもにフォーカスしたグリーフケアの必要性

高井:なるほど。しかし、先生もその活動は現在では行っていらっしゃらないんですよね。止められてしまったのは何が原因だったのでしょうか?

川越:この活動をするにあたって、非常にエネルギーを使うことがわかりました。これは単に準備や当日のセッティングのための人手と物理的なエネルギーということではなく、遺族の方のお話を伺い、きちんと受け止め、適切に話を進めていくということを行うと、やはりシリアスなお話ですからこちらもエネルギーを使って対応する必要があるわけです。我々は本業である在宅ホスピスの方でも人の生死ということを扱っているので、エネルギーを使っているわけですが、これに加えて、ご遺族の方の会を開いてエネルギーを使っていると本業の方まで影響してしまうのではないか、という懸念が出てきまして、現段階で我々がそれを行って、本業に悪影響を与えてしまうのは、本末転倒ではないか、時期尚早ではないかということで、いったん中止にすることを決定したわけです。

高井:そうだったんですね。

川越:ですから、今回高井さんのお姉さんの小林真理子さんが考えられた若くしてがんで亡くなった方たちの子供さんたちを助けていこう、というAIMSのお話を高井さんから聞いたときに、ぜひともこの活動をサポートしていこうと思ったわけです。

高井:ありがとうございます。

川越:やはりこの分野というのは海外の方が研究も活動も進んでいますので、まずは海外の活動を調査・研究して、それらのうち日本に取り入れることができるものは何なのか、というのを考えられるのが良いのではないかと思います。

高井:海外だとどの国が進んでいるのでしょうか?

川越:やはりアメリカ。それに加えて、イギリス、カナダ、オーストラリアといったところではないかと思います。アメリカではダギーセンターというところが有名ですし、私どものパリアンが提携しているホスピスハワイというハワイにあるホスピス施設もがんで親を亡くした子供さんたちを対象に年1回キャンプを行っているようです。ここの活動も調査してみたらいかがですか?

高井:ええ、ぜひ今度ご紹介ください。

川越:いずれにせよ、親をがんで亡くした子ども、というところにフォーカスをあてた活動というのは日本にはないと思いますが、非常に意義のある活動だと思います。ぜひともじっくりと取り組んで、真理子さんの思いが成就するように、また多くの方の助けになるように活動を続けていきましょう。

高井:本当にそうなると良いと思います。今日はお忙しいところありがとうございました。また、今後もよろしくお願いいたします。

◇参考◇

医療法人社団パリアン

末期がん患者や高齢者の「できるだけ家で不通に過ごしたい」という思いを専門家の立場で支援しようという在宅ケア組織として発足。在宅療養支援診療所、訪問看護、デイホスピスなどのサービスを実施している。

http://www.pallium.co.jp/

川越厚先生プロフィール

略歴
1947年 山口県山口市生まれ
1973年 東京大学医学部卒業
茨城県中東病院産婦人科医長、東京大学講師、白十字診療所在宅ホスピス部長を経て2000年、在宅ケア支援グループパリアンを設立
主な著書

「家で看取るということ」講談社
「在宅ホスピスケアを始める人のために」医学書院